ベゴニアの花言葉
あ「あああああああおはようううううううう!!!」
さ「おっ、ぎりぎり間に合ったね。」
も「亜紀ちゃんおはよ~、まだ先生来てないよ」
あ「よかったぁ・・・、っはぁ~!!!」(めちゃくちゃ疲れたのとほっとしたのでため息)
さ「まぁ、厳密に言えば遅刻なんだけどー」(棒読み)
あ「わかってますぅー!!!」
も「あははw」
あ「あれ?でもまだ一人いなくない?」
【担任が入ってくる】
小「よーし、先生が遅れたからって遅刻してきてる輩はいないなー??」
朔「せんせー、龍ちゃんがまだ来てませーん」
小「ですよねぇ~そうですよね~」(呆れ
龍「わあああああああああセーフ?!セーフ!?」
小「アウトだよ!!!」
龍「そんなぁ!!!セーフだよなぁ大将!!なぁ!!!」
大「・・・無断な抵抗すんな。」(いい笑顔)
龍「大将ぅうううう!!!見捨てないでぇ!!!こっち向いてぇ!!!」
大「やめろおま、袖ひっぱんな!!!」
小「コントしてないで早く席につけアホ。」
【クスクスと教室に響く笑い声と共に龍が席に着く】
さ「おっはよー龍。通算何回目よw」
龍「うるせぇよ!!」
も「・・・皆勤賞」(ボソッ
龍「待ってそれどっちの話!?」
あ(他人事じゃない・・・危なかった~・・・。)
小「じゃー改めてー出席取るぞ~・・・」
小林先生の声を遠くに聞きながら、そっと席から窓に目をやった。
あ(あ、いた・・・。)
私の席から見える中庭の花壇に、いつもの後ろ姿が見える。
スーツのまま花壇に水をあげたりするその姿に思わず顔がにやけてしまう。
周りにバレないように手で口元を隠すのも慣れたものだ。
明日も明後日も明々後日も、その後ろ姿をずっと見ていられると思ってた。
武藤「お前らさー、なぁんで教室でお昼しないのー?」
も「ごめんなさい武藤先生」(にこにこ
さ「だってここめちゃめちゃ涼しいし、購買近いし、ねぇ?」
あ「二人共絶対に改める気ないよねw」
武藤「もーあのさぁここはあたしの城なんだけどー?女子生徒が昼休みに女子会する所じゃないんだけどぉ~!」
も「ふふふ、先生。先日お渡ししたマドレーヌ美味しかったですか?」
武藤「・・・美味しかったですね。」
も「あれ、パパが百貨店で買ってきてくれた超超超レア物で、この辺りでは通販もままならないんですぅ・・・」
武藤「・・・存じ上げております。」
も「なんですけど、普段こうして保健室を貸して頂いてるので、感謝の気持ちと今後も快く保健室を貸して頂けたらなぁ~・・・っていう、あっ、全然賄賂とかではないので邪魔でしたら気になさらず私たちを追い出して頂いて構いません・・・ぐすん」
武藤「きぃい・・・佐倉お前ろくな大人にならないぞぅ!!」
も「世渡り上手、って言ってください先生♥」
さ「虫も殺せそうにない子に見えるんだけどなぁ・・・・」
あ「人は見かけに寄らないねぇ・・・。」
も「ところで沙也ちゃんっ!進展あった?!」
さ「わ、始まった・・・いや特に何もないでしょ・・・昨日の今日で・・・。」
も「え~でも幼馴染でしょ?帰り道も結構一緒になってるみたいだし」
あ「え、あ、そうなんだ。あれだよね、あのー江口くんだよね?」
さ「いやまぁ、まぁね?そうだけど・・・小さい時からずっと男友達みたいに過ごしてきた訳だから、そう簡単にはさーーーーーー」
あ「沙也この手の話題めっちゃ苦手だよねw」
さ「聞く方は大好物なんだけどねーーーー自分の事となると、こう、まぁこのままでもいいかなって思っちゃうんだよねーーー。別に困ってる訳でもないし、今の関係自体居心地よくてさ。」
あ(わかる。超わかるよ沙也!)
も「沙也ちゃんってば保守的・・・武藤先生みたい」
武藤「あたしがなんだって????」
も「なんでもないでーす♥、はーあ、いいなぁ・・・私も片想いしてみたいなぁ・・・。」
さ「あーそう言えば萌咲のそういう話聞いたことないかも。」
あ「確かに確かに!」
も「あったら二人に話してるよぉおぉおぉおぉおぉおぉ~・・・・」(机につっぷす
さ「そっか~・・・だからあんた妙にあたしに話聞いてくるんだね・・・よしよし・・・」
も「うううううううう沙也ちゃあああああああんんんんんん」
あ「萌咲のギャップよ・・・。」
も「あっ、亜紀ちゃん」(ケロッ
あ「あ、え、ん?!なに!?」
さ「萌咲、あんた切り替え速度やばすぎだから。亜紀困惑してるから。」
も「えへへ~あのね、今日も放課後に音楽室付き合って欲しいんだけど、だめかなぁ?」
あ「あ、ああ、ピアノね!いいよ~特に何も用事ないし!」
も「ほんと!?ありがと~亜紀ちゃんの声凄く通るから伴奏耳コピが捗っちゃって捗っちゃって・・・ふふっ」
さ「笑い方怪しいから。」
も「沙也ちゃんも歌ってくれていいんだよー?いつも聞いてるばっかしじゃん」
あ「あ、いいね、沙也も歌おうよw」
さ「やーだーよー!絶対やだ!!亜紀と並べられたくない!!」
あ「ひどぉい!!」
さ「そんな・・・美人とプリクラ撮るみたいな事・・・できないっっ!!!むざむざ死にたくないっっっ!!」
あ「え、そっち?」
武藤「盛り上がってるとこ申し訳ないんだがなぁーそろそろ昼休み終わるぞー」
あ「あっっ!!!やばっ!」
さ「ちゃっちゃ片付けて教室戻んなきゃ!」
も「えー?大丈夫だよぉー」
あ、さ「「大丈夫じゃない!!!」」
も「お、おおお・・・サラウンド・・・。」
【放課後】
も「ふふふ~♫」
さ「なぁ萌咲さー」
も「ん?なぁに~?♫」
あ「どうやって、音楽室の鍵・・・」
も「え?あぁ、優しい優しい武藤先生にお願いしたら貸してくれるの~」
あ、さ((むっちぃいっっっ・・・!!!(悲)))
【音楽室のドアを開いて中に入る】
さ「あっついなぁ~窓開ける?」
も「あ~・・・うんお願い~・・・」
あ「蒸し風呂ぉ・・・!」
も「あ、でも風通ってきもちいいね~学生特権だなぁ~」
さ「おい、歳。」
も「いやだってさー家じゃこんな事できないよー?あ、亜紀ちゃん今日の曲なんだけど・・・。」
あ「はいはいどれどれー?・・・え、萌咲さん・・・?これ耳コピしたの??」
さ「え、なに・・・は!?え・・・これは・・・えええ・・・」
も「?なんで二人共そんなにびっくりしてるの?私だってX JAPANのFOREVER LOVE聞くよ?」
あ「萌咲の声でX JAPANって言われるともうなんだろう、その、」
さ「私らが知ってるのじゃない、みたいな気持ちになるよね、」
あ「それぇ・・・」
も「なんで!?亜紀ちゃんの高音100%活かせるよ!?」
あ「そういう話では」
さ「ないです。」
も「んんんん???おかしいなぁ・・・ま、取り敢えず歌って亜紀ちゃん!」
あ「あの、私まともに聞いたことないんだけど・・・」
も「と!思って!ちゃんとご本家のCD用意しました!!」
あ「あ・・・はい。」
さ「流石・・・用意周到なんだよなぁ・・・。」
武藤「おー・・・これは、あれか、佐倉と篠崎かぁ・・・あれ?塩見先生?」
塩見「あっ、武藤先生。お疲れ様です。」
武藤「塩見先生こそ、放課後までお疲れ様です・・・綺麗に咲いてますねー。」
塩見「えぇ!生徒達が積極的に世話をしてくれているので!」
武藤「ほぉ・・・たいしたもんですなぁ・・・私はこの通り花やらなんやらにはとんと縁のない人間なもんで、感心します・・・。」
塩見「ははは、言い方wあ、でももしかしたら肥料がいいのかもしれませんね。」
武藤「肥料、といいますと?」
塩見「ええっとですね、花に音楽を聴かせるといい、っていう、ちょっと御伽噺みたいなものなんですけど。ほら、この上の音楽室で放課後いつも歌っている声が聞こえてくるので!」
武藤「あー・・・なるほどぉ・・・」
塩見「あ、武藤先生今子供っぽいって思ったでしょ」
武藤「いやいやそんなそんな、あーそうかぁって思っただけですよw」
武藤「塩見先生はこれ誰が歌ってるのかご存知で?」
塩見「あ、いえ、綺麗な声だなぁといつも感心して聞き入ってしまっているだけで誰かまでは・・・音楽の先生とかですか?」
武藤「いやいや、えっとピアノ弾いてるのが佐倉で歌ってるのが篠崎だっけな。二年の。」
塩見「そうなんですね!生徒だったとは・・・そうか、すごいなぁ・・・。」
武藤「でもFOREVER LOVEってあいつらいくつだ・・・。」
塩見「名曲ですけどね・・・。」
【次の日】
さ「萌咲ー亜紀ー」
あ「ん?」
も「どうしたの?沙也ちゃん」
さ「今職員室にノート渡しに行ってきたんだけどさ、先生達が話してるの聞こえて」
さ「園芸部の塩見先生、転勤するらしいよ。」
世界が突然灰色になった。
あ「え・・・?」
も「え、ほんと?私あの先生優しくで好きだったんだけどーショックーね?亜紀ちゃん・・・・亜紀ちゃん?」
あ「え、あ・・・ああ、うん、そうだね。」
も「?・・・え、塩見先生いつ転勤するとか言ってた??」
さ「んーーー、私の聞き間違いでなければ、来月っぽい事言ってたような・・・自信ないけど!」
あと一ヶ月
あと一ヶ月で
塩見先生が、いなくなっちゃう。
さ「!?亜紀!?」
も「亜紀ちゃん!?どこ行くの!?もう授業始まるよ!?!?」
その日はじめて授業をサボってしまった。
いや、まぁ、そもそも、そんなに話したことがあるかと聞かれると、そんな事なくて
ただ、学校に来る時いつも凄く嬉しそうに花に水をやってる顔を見て
歳上なのに「可愛いな、」って思ってしまったりして
ただ、一度だけ廊下ですれ違った時、一言「おはようございます。」と笑顔で挨拶されただけ
それだけ、それだけ。
あ「ただ、見ていられれば良かっただけなんだけどな・・・。」
本当にそれ以上は望んでなかったのに、私の心はいつの間にこんなに我が儘になってしまったんだろう。
一度授業をサボってしまうと教室に戻りづらくて、皆が移動教室のタイミングで教室に鞄を取りに行って、小林先生に初めて仮病を使って早退した。
家に帰ると母さんがいて、思いの外あっさり「おかえり。」と言われて拍子抜けした。
あ「・・・!スマホ・・・・わぁ、沙也と萌咲からすっごい連絡着てる・・・」
さ『プリント貰っといたし、ノートは萌咲がとってくれてるから授業の方は大丈夫だよ。話したくないなら聞かないけど、絶対一人だと思わないでね。』
も『亜紀ちゃんんんっ!大丈夫!?ごめんね、亜紀ちゃんがなんかで悩んでたの全然気付かなくて・・・何もできないかも知れないけど、私壁にはなれるからね!吐き出すだけ吐き出してくれていいからね!?』
あ「・・・っ、二人共ありがと。ごめんね・・・。」
先生に片想いするのって、昔からダメってなんとなく思ってたし
自分の気持ちがダメな物なんだって思うと二人には話せないなって思っちゃって
言い出せなかった。
けど、うん。
あ「甘えても、いいかな・・・。」
【数日後】
あ「あ、あのーごめんね・・・うちまで来てもらっちゃって・・・。」
さ「いいよ別にそんな事は、元気そうで安心したわ・・・。」
も「そうだよ!あれから数日学校休んじゃうし・・・珍しく龍とか大将とかも心配してたよ。」
さ「朔太郎はなんか、悟った顔して「色々あるのよ、女の子には」って言ってたけど。」
あ「朔太郎・・・」
さ「それで、なんかあったの?」
あ「え、あぁ、まぁ、大した事ではないんだけど、ね」
も「大した事じゃなかったら私達を家に呼んだりしないでしょー?学校で話しづらい事なんじゃないの?」
あ「あははー・・・ご名答ですー・・その、びっくりさせちゃうと、思うんだけどさ・・・。」
私がどうしてあの日走って帰ったのか
どうして恋バナに参加できなかったか
どうして二人に塩見先生が好きな事を話せなかったか
ゆっくりゆっくり、自分なりに精一杯話してみた。
も「っ・・・ぐずっ」
あ「で・・・!?え、萌咲なんで泣くの!?」
も「だ、だってぇえ・・・私、そんな事とは露知らず無神経に 片想いしたいな~ とかのたまっててぇえ!!!聞いてた亜紀ちゃんの気持ちになったら胸がめちゃくちゃ苦しくてぇ・・!!」
あ「え、えええ!?いや、あの、いや、ええええ・・・こ、困るぅ・・・すごい困るぅ・・・」
さ「、ちょっと萌咲・・・あんたあたしが我慢してんのにそうやってさぁ!」
あ「ええええ!?沙也まで!?えええええ・・・困るぅ・・・!」
も「ごめんねえええええ亜紀ちゃんんんん!!」
さ「あたしも、ごめんね・・・っ、辛かったよね・・・!」
あ「え、あ、いや、いやぁ・・・ほんとうに全然辛いって思ったことないから、その、二人共泣き止んでーーー!!!」
困り果てていたのは事実だけど、私は友人にとても恵まれたなぁって二人に感謝した。
迷惑と思う所か、真っ先に私の気持ちになってくれた。
それでどれだけ私の中に広がっていたモヤモヤを消してくれた事か。
その後、取り敢えず明日から学校に行く事を二人に約束して
帰っていく二人を見送った。
先生が転勤するまで、もう半月を切っている。
けどもう大丈夫、何がどう大丈夫なのか分からないけど
そうだなぁ、最後に少しだけ話せるといいな、なんて。
【次の日】
龍「おい大将!!腕相撲しようぜ!」
大「おはよう龍。なんでお前は朝まず俺の顔を見るなり腕相撲しかけてくるんだよ。草むらから飛び出す野生動物か。」
龍「俺をコ●ッタとかと一緒にすんな!!!」
朔太郎「じゃあポッ●?」
龍「うっせーぞ朔太郎ー!!とーにーかーく!腕相撲やるんだよ!!」
大「・・・朔、なんとかなんねーのこいつ」
朔「ならないんじゃなぁい?こないだ大ちゃんにバチボコにされたのが相当悔しかったみたいなのよね~その子。」
大「はぁ~・・・」
あ「おっはよぉ~・・・」
も「おはよう亜紀ちゃん。」
さ「亜紀おはよー。」
あ「篠崎亜紀、無事復帰しましたー・・・ってなんか男子の所騒がしいね。どうしたの?」
さ「いやぁそれが・・・亜紀が休んでる間に龍が大和に腕相撲で瞬殺されてな・・・。」
あ「うわぁwだーめじゃん、江口くんってあれでしょ?空手部でしょ?」
も「この前朝礼で表彰されてなかったっけ確か。」
あ「あー・・・強敵に挑みたくなる男の子心なのかな」
さ「くだんないわー・・・」
龍「大将ー!!!」
大「はーうるせぇ・・・しゃあねぇなぁ、一本だけな。」
龍「やったー!!今日こそ勝ぁつ!!!!」
大「朔、ジャッジ頼む。」
朔「しょーがないわねー、はい。じゃ見合ってーはっけよーい・・・のこった!」
龍「うぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」
あ「あ、なんか始まったね。」
さ「無駄無駄、龍如きで大和の腕力に勝てるもんですか。」
も「ふふふ、ちょっと龍ちゃんにヤキモチ妬いてない?」
さ「!?だ、誰が!!」
も「私、沙也ちゃんがーなんていってないもーん♫」
さ「っっっっっ萌咲!!!」
も「ふふふふふww」
大「おい龍、そんなもんか。動いてねぇぞ」
龍「くっそぉおおおおおおおおお!!!!うぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」
朔「龍ちゃん頑張ってー、龍ちゃんが勝ったらアタシのお昼にカツサンドが付くのよ。」
龍「ちっくしょ、朔太郎!俺で賭けすんじゃねぇえええ!こちとら真剣なんだぞぉおおお!!」
大「外野と会話するくらい余裕があんのか、そうか。」
龍「おっ、おおおおおおっ!?」
大「手首折っちまうぞ?いいのか?」(ニヤニヤ
龍「くううううう・・・うぐおおおおおおおっっ・・・だはっ」
朔「はーい、大ちゃんの勝ち~龍ちゃんざんねーん。」
龍「くっそぉおお・・・あいつはゴリラだぁ・・・。」
大「人間だわ失礼な。お前が軟弱なんだよ、まだ沙也の方が歯ごたえあんぞ。」
龍「俺女以下!?」
あ「あ、江口くんが沙也の事言ってる。」
さ「え」
も「ぶふっ」
さ「萌咲!!」
も「ごめんっ!ごめんてー!可愛くてつい、つい!!」
あ「ははははw」
ふと窓の外を見た。
いつもいる、塩見先生。
今日も花壇のお世話をして・・・
塩見「?・・・・!」
あ「っ!!」
嘘。
目が、合った・・・?
いつも後ろなんて振り向かないのに!
どうして今日に限って、いやむしろ
なんで、今更振り向くのっっ
思わず、慌ててしゃがみこんで隠れてしまった、
も「?亜紀ちゃん?」
さ「どうした急にしゃがみこんだりして・・・」
も「窓からなんか見え・・・あっっっ!!!」
さ「ん?なに・・・あ・・・・」
さ、も「ふーん、亜紀(ちゃん)そうなんだ、ふーん」(ニヤニヤ
あ「わー!わー!わー!やめてー!!」
神様は意地悪だ。
どうして、今まで通りで終わらせてくれないんだろう。
どうして、もしかしたら、って期待させるような事を起こすんだろう。
もしかしたら、先生が、私の存在に気付いてくれてるかも、って思わせるような事を
もうすぐ先生が、行っちゃうこんな時に起こすんだろう。
あ(だめだ、このままじゃ、だめだ。また落ち込んじゃう・・・。)
その日から私は、窓の外を見なくなった。
私は弱いから、友達の力を借りてしゃきっとしたのに
すぐズルズルと先生に引きずられてしまうから。
【数日後】
も「亜紀ちゃーん!」
あ「んー?なになに」
も「今日も放課後に音楽室付き合って欲しいんだけど、私掃除当番で、鍵渡しておくから先に行っててもらえるかなぁ・・・?」
あ「あ、うんわかった。沙也は?」
も「沙也ちゃんはちょっとだけ空手部に顔出してから行くって言ってたよ~!」
あ「そっかそっか、わかった!待ってる~!」
【放課後、音楽室】
あ「うわあああ・・・、また暑いなぁ。窓あけよっと。」
あ「うーん、待ってるって言ったものの、何して待ってようかな・・・。」
あ「あ、そうだなんか、CDあったような気がする、音楽の授業で使ってたのが・・・ちょっと借りてなんか歌ってよっと!」
ガサゴソとCDが入っている棚を漁ると、案外よく知ってる曲のCDがある。
シングルCDでインストも入っててぼーっと歌うには丁度いいものばかりだった。
その中から、一時期爆発的に売れた少女漫画を実写化した作品のテーマ曲として使われた曲が出てきた。
あ「・・・・・。」
なんとなく、歌詞カードを見てみた。
そっか、この曲こんな歌詞だったなぁ、なんて思いながら目を通していく内に
口から溢れるのはうろ覚えなメロディライン。
寂しい、とか
悲しい、とか
直接的な歌詞は一切ない。
視覚、聴覚、そういった情報のみで伝えられる物悲しさは、今の私の気持ちにすっと馴染んでいくような気がした。
感情に直結する言葉はただ一つの「好き」、っていう単語だけ。
【音楽室の扉が開く音】
あ「!?!?」
神様は
本当に
あ「あ・・・っっ」
塩見「あ、の・・・すみません、急に。」
意地悪だ。
あ「あ、え、あ・・あ」
言葉が出ない、あんなに話したかった塩見先生が
先生から、話しかけてくれたのに、
塩見「えーっ・・・と、突然すみません。驚かせてしまって・・・。」
あ「え、あ、い、いえ、だいじょ、うぶでう」
あ(わあああああああああ噛んだ!!噛んだ!!!なんだでうって!!噛んだ!!!)
塩見「あの、・・・実は僕、その、窓の下の花壇で放課後ずっと水を上げていたんです。」
あ「・・・あっ」
ずっと先生ばかり見てて、今の今まで気がつかなかった。音楽室の下が花壇、ということは・・・
あ「っっっっっっっっ!!!」
つまり、ずっと私の歌を聞かれていた、と言う事
気付いた瞬間顔に一気に熱が集まるのを感じた、熱い、顔が熱い。
塩見「あ、その!怒りに来たんじゃないんです!その・・・篠崎、さんですよね、ずっと歌ってらっしゃったのって、」
あ「、っ・・・っ!」
言葉が詰まって、頷くことしかできない。
顔の熱のせいで、悲しいわけでもないのに涙が眼に滲み始めて、
両手で口を押さえて必死に堪えているから。
塩見「そうでしたか・・・数日いらっしゃらなかった様で、心配して居たんですが今日久しぶりに篠崎さんの声が音楽室から聞こえてきて、」
塩見「ほっとした反面、今日はなんだかとても、悲しそうに聞こえてしまって・・・その、気のせいだったら申し訳ないんですが、気になってしまって・・・はは、気持ちわるいな僕、すみません。」
塩見「あ!そもそも名乗ってさえ居ませんでしたね!!ええと、私はしお」
あ「知ってます!!!!!!!!!」
塩見「え・・・」
知ってます。
ずっと、見てました
知ってます、ずっと前から、
お名前も、声も、表情も、ずっとずっと見てましたから
知ってます。知ってるんです・・・!!
気持ちが溢れ出しそうになりながら、抑えて、抑えて、
あ「塩見、隆彦・・・先生、でしょう?・・・知ってます。知って、ました。」
塩見「あぁ・・・そうですか、ははは、あんまり園芸部以外の生徒と接する機会がなかったので、知っていてもらえて嬉しいです。ありがとう、篠崎さん。」
あ「・・・いえ、そんな、」
塩見「あ、それで、話は戻るんですが・・・何かあったんですか?僕の気のせいだったら気のせいだったで構わないですし、それに越したことはないので!」
あんたのせいだよ、
あ「いえ・・・今歌ってた曲が、切ない曲だったから、じゃないですかね、多分。」
塩見「そうでしたか、よかった・・・ん?よかったのか?いや、すみません・・・はははっ」
塩見「今日、篠崎さんにお会いできてよかった。」
あ「は・・・どうしてですか?」
塩見「ずっとお礼を言いたかったんです、素敵な歌声のお陰でとても綺麗な花が咲いたので!僕も花も篠崎さんのファンだったんです。それを転勤前に伝える事ができて、本当によかった・・・。」
神様
もうギブアップです。
確かに、話せたらいいな、って思いました。
けど、もう大丈夫ですお腹いっぱいです。
これ以上私が諦められなくなる様な事を起こさないでください。
塩見「あっ、すみません、話しすぎてしまいましたかね・・・」
先生が左腕の腕時計を見た。
その時、幸か不幸か
薬指に光る銀色に、気付いてしまった。
気付いてしまっただけならまだしも、視線を逸らすよりも先に
先生に私がその銀色に目を奪われている事に気づかれてしまった。
塩見「あ、・・・あはは、こんななりですけど運良く結婚することが出来まして・・・よく言われるんですよね、お前よく結婚できたなー!なんてwそれに今度は子宝にも恵まれて、」
あ「こ・・・?」
塩見「ええ!僕の奥さんがもう直ぐ僕の子を産んでくれる様なので、奥さんの体の事も考えて、校長が自宅に近い学校に変わった方がいいのではないかと言ってくださって・・・それで今回校長の古いご友人が校長を務めていらっしゃる学校へ転勤、って僕これ話しちゃまずいのでは・・・?まぁ・・・いっか!今日までだし!!ははは!」
あ「そ、そうなんですね・・・おめでとうございます・・・。」
塩見「有難うございます!」
【音楽室の扉が開く音】
も「亜紀ちゃんごめんねー!おそくな・・・あ?」
塩見「あっ、もしかしていつもピアノを弾いていた・・・佐倉さん、ですか?」
も「あ、あー・・・はい!そうですそうですー!どうもー!塩見先生ですよね!今日がここにいる最終日だとお伺いしたのでてっきりもうお帰りになられたものだと思ってましたー!!」
塩見「かえ・・・あ!!そうだ僕今日早く帰るって奥さんに言ってたのに!!すみませんほんと長居してしまって!!うわあ・・!」
【バタバタと走っていく音】
も「うっそでしょ・・・こんなタイミングで・・・。」
あ「っ・・・うううっ」
も「亜紀ちゃん!!!」
緊張の糸が切れ、その場にしゃがみこんでしまった私の肩を
萌咲が優しくさすってくれる
も「ごめんね・・・!私がもっと早く来ていれば・・・いや、どっちだろう、空気よめてた可能性も無きにしも非ず・・・いやいや今はそんなことどうでもいい!亜紀ちゃん大丈夫?!」
あ「うんっ・・・うううん・・・うううっ」
も「よく我慢したね・・・本当に、よく我慢したね!!」
心なしか萌咲の声も、さすってくれる手も震えてる気がした。
その後、何も知らずに音楽室に来た沙也は
うずくまって寄り添いながら泣いてる私と萌咲を見て大層驚いたんだと思う。
さ「お疲れーおそくなってご、うぇえええ!?」
って今まで聞いた事ないような声出してたから。
もう涙やら鼻水やら色んな液体で訳がわからなくなりながら
事情を説明したら
沙也まで泣き始めてしまって
後日「うええええ、困るぅ・・・」と一緒に笑い話になる訳なんだけどもw
泣き疲れるまで泣いた結果、なんだかすっきりして
あぁ、終わったんだなぁ私の片想い、とすんなり自分自身を納得させる事が出来た気がする。
あ、後余談ですけど
先生がいなくなってから、妙にモテるようになりました。お付き合いとかはまだわからないからお断りするんだけれども。
それを朔太郎に言うと「女は失恋して綺麗になんのよ、今のあんた、絶対綺麗。自信持ちなさい。」って言われました。
ねぇ、先生。私、綺麗になったのかな。
end